読んだ本について記録する 8
読んだ本について記録する 8
別役実 「東京放浪記」 平凡社 2013

東京ほど地名で語られる都市はない。

例えば、朝刊に「たばこと塩の博物館」の広告が載っていた。
それによると、近々、渋谷区から墨田区へ移転するそうだ。

「渋谷のあのあたりもなんか寂しくなっちゃったし、ちょっとおっかない感じだからね、墨田区なんていいんじゃないの。スカイツリーあるし。」
などとつい言ってしまうわたし。

住んだことがあればよく利用した路線や沿線を、住んだことがなくても、通った覚えのある街を、親しげに語りがちだ。

著者は高校卒業後、家族で長野県から上京した。
以来今日までを、住所の地名から、親しんだ街の名前から、電車の路線から、振りかえっている。

タイトルにあるように、そこに定着するようなしないような、仮住まいのようなそうでないような暮らしが描かれる。

早稲田大学入学直後に演劇活動に参加し、以来、劇作中心の暮らしも、帰属のないようなあるような空気を漂わす。

それは、著者の来歴もさることながら、東京という街のもつ独特さに由来するものなのかもしれない。

自著について書かれているのも、興味深い。

執筆は長らく喫茶店で行い、それに適した喫茶店のあれこれも書かれている。

著者の喫茶店についてのこだわりを、大学生のころ読んだエッセイで知った。
現代新書編集部編 「東京情報コレクション」 講談社 1986
だいぶ浮かれたタイトルの選書だが、集められたエッセイは、バブル全盛期だというのに醒めた目線が感じられ、今読んでも面白い。
この本は国分寺の三石堂で買ったのだが、あるじ(かな?)の見事な手さばきで、紙カバーが掛けられている。

元の書籍にもどって、「東京放浪記」は、帯にあるように自伝的エッセイ集であるので、ご家族のことも折に触れ描かれている。
娘さんであるべつやくれい氏のファンは、必読だ。

べつやく氏も、東京の街についてのエッセイを描いている。
べつやくれい 「東京おさぼりスポット探検隊」 メディアファクトリー 2010
帯にあるように、東京の街でうまいことさぼる、ということをひたすら主眼にしている。
お父様にできたばかりの東急ハンズへ連れて行ってもらったエピソードなども、描かれている。

ふと思い出したのだが、中村伸郎の「授業」を見たいと思っていたが、ついぞ見る機会がなかった。
ジァンジァンもなくなってしまった。

渋谷なんて、もとよりわたしが語れるような街ではないのである。


コメント