バックストリート、とつい言いそうになる

映画「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」を見てきた。
やっとである。
1月18日土曜日、横浜ニューテアトル。
路線を間違えて上映開始に遅れてしまい、冒頭5分くらい見損なってしまった。
「ワイルドサイドを歩け」のところ(見ていないからよく判らないが)。
一生の不覚である。

原題が"20 feet from stardom"、歩幅の広い人なら、5,6歩だ。
もうちょっとか?8歩くらい?
スターの座まで、ではなく、スターの座から、というのがポイントか。
たった数メートルが、はてしなく遠い。

演奏シーンがふんだんに現れる。
レイ・チャールズ、デイヴィッド・ボウイ、ストーンズなどなど。
ロックミュージックが、黒人女性バックヴォーカルに彩られてきた歴史が判る。

どんなに歌がうまくても、なぜかスターになれない。
それはなんでか。
「歌唱力が問題なのではない」
「運や、タイミングや」
「公平な競争で決まるわけではない」
と、ブルース・スプリングスティーンやスティングが言うのが、なんとなく憎たらしく感じる。

べつに本当に憎いわけではありませんよ。

ただ、ミック・ジャガーが、女性バックヴォーカルを採用したおかげで凄い作品ができた、と言っておきながら、「ウーとかアーとか歌っているだけなのは、自分ならいやだ」みたいなことも言っているのは、ちょっとほんとうに憎たらしかったが。

たとえ楽曲が好みに合わなくとも、引き受けた仕事として誠実にこなし、大ヒットにつながった他人の作品と、よいものを作ろうと意欲的に取り組んで、ヒットしないソロ作と。
分を弁えた仕事をするべきなのか。
社会人としての成功とは、どういう状態の実現をいうのか。

自意識ということを考えさせられた。


日本に決まるだの決まらないだの大騒ぎの9月5日、ローフス・ミシュ氏は亡くなった。

映画「ヒットラー最後の12日間」で、いよいよ陥落、という時に呆然としていたミシュ氏(を演じた俳優)が印象に残っている。
あの場面、音楽ともなんともいえない音が、背後に流れていた覚えがある。

といっても、劇場で見たのではなく、何年か前にCSの映画専門局で頻繁に放映されていたのを、切れ切れに見たのだった。

主演は、天使やら総統閣下やら、難役をものにするブルーノ・ガンツ。

ガンツの主演作「ベルリン天使の歌」も、分断されたベルリンを舞台にした、重い映画だ。
そんな中、ピーター・フォークのシーンが文字通り彩りを添えていた。
屈託のない、元天使、現人気俳優。

「ヒットラー最後の12日間」に描かれた総統地下壕の関係者はみな亡くなり、ミシュ氏が最後の生き残りだったという。

ドイツの俳優を殆ど知らない。
ミシュ氏を演じた俳優を調べてみると、そのHeinrich Schmiederは、三年前に亡くなったという。

ふと思い出したが、映画「鷲は舞いおりた」では、ドイツの軍人のはずなのに、全員英語を喋っていて(イギリス映画だから)、ちょっとトンデモ映画みたいだった。

村上春樹のエッセイで確か、映画の原作"The eagle has landed"が、当初「鷲は土地を所有した」と翻訳されていた、と書いていたが、ほんとうにほんとうかな。
わたしの記憶違いか。
わがままは言うまい


銀座の映画館、シネパトスが3月末で閉館するそうだ。

銀座から歌舞伎座のほうへてくてく歩いていくと、おもむろに地下街がある。

なんか、変わった構造だ。駅の地下とかビルの地下とか、なにかのオマケ的にではなくて、地下街だけがそこにある(ように見える)。
街といっても、いたってこじんまりしている。
道路の下、いくつかの店舗と並んでシネパトスがある。

シネパトスへは、二回しか行ったことがない。
見たのは、「カポーティ」と「太陽」。

「カポーティ」は、『冷血』取材時のトルーマン・カポーティを描いた物語だ。
話が話だけに、あまり後味はよくない。
主演のフィリップ・シーモア・ホフマンは、この作品でオスカーを獲得した。
カポーティのある種の「いやな感じ」や「繊細な感じ」をうまく醸していたと思う。

「太陽」は、終戦前後の昭和天皇を描いているが、外国映画だ。
主演はイッセー尾形。
地下の一室での御前会議で、阿南陸相役の六平直政だったか、汗をだらだらとかきながら発言していたのが印象に残っている。


御前会議を描いている作品はほかにもいくつかあるのだろうが、わたしが見たといえる映画は、「日本のいちばん長い日」だけだ。
東宝創立35周年記念の作品で、たくさんの俳優(ほとんど男性)が出演した。
御前会議の様子をその場にいるつもりで見ていると、暑くて息苦しくて、気が遠くなる思いがする。

唯一と言っていい出演女優が、新珠三千代だ。
「細うで繁盛記」だ。
「銭の花はあこうどす」だ。
冨士眞奈美がいびり役で、変わった方言だなあ、と思っていたが、だいぶあとになって自分が住んでいる近隣の設定だと知った。
驚いた。

まあたしかに、あんな感じの喋り方だ。

シネパトスと細うで繁盛期、別に関係ないな。関係あるのかな。

結局シネパトスにはもう行けそうもない。
森下くるみにチケットをもぎってほしかった。
残念だ。