始祖はリンダだったのかもしれない。

ピンクレディーにうつつを抜かした小学校期を送ったわたしであるが、それより前に熱を上げたのは、天地真理だった。
なにしろ、真理ちゃんモデルの自転車が発売されるほどの人気ぶりだったのだ。自転車欲しかった。ちょっとパーマがかかってふわふわした髪型、かわいい洋服、そして絶やさぬ笑顔。
彼女の歌声は、とても耳に残るものだ。「恋する夏の日」「虹をわたって」などは、よく物真似をしたものだ。明るい雰囲気の歌だけではなく、「若葉のささやき」など、こどもには難しい歌詞ながらとても印象に残っている。

幼児の憧れる身近な大人といえば、当時はなんといっても幼稚園の先生だった。親より若く、ピアノが弾けてお歌が上手で。そんな先生が、結婚して退職でもしようものなら、いっせいにしょんぼりしたものだ。
テレビに出ている人だとはいえ、今考えれば、わたしにとって真理ちゃんは、素敵な幼稚園の先生の具現化だったのかもしれない。

今から10年くらい前に、天地真理がNHK「思い出のメロディー」に出演したのを見た。体型の変化は聞き及んでいたので驚かなかったが、歌唱力が変貌しているのに驚いた。というかうろたえた。かなりの部分を、女声コーラスに補われていたのである。あんまり声が出ていなかった。
真理ちゃんは国立音楽大学の付属高校の出身で、音楽の才能があったはずだ。確かに最近あんまり活動していないから、現役の歌手と比べるのは酷だが、なぜ…と、わたしが狼狽することもないのだが、テレビを見ながらおろおろした。
あまりにも長い期間、天地真理のことを考えたことがなかったのに、幼いころのアイドルだったことを思い出して、急にギャップが襲ってきたのだろうか。
そんなわたしの思惑にまったく関係なく、テレビの真理ちゃんは、ひらひらしたきれいなドレスをきて、にこにこしながら歌っていた。

番組ではこの後、榊原郁恵が登場し、「夏のお嬢さん」を歌った。このとき、コーナーの進行をしていた平尾昌晃の「郁恵ちゃんは本当に素晴らしいアイドルで」という言葉が忘れられない。榊原郁恵は当時もう40歳を超えていたかもしれないのだが、きちんとアイドルを体現していた。現役感が溢れていた。

しばらく、「真理ちゃんはなぜテレビに出たのだろう」と不思議に思っていた。アイドル時代の記憶を保つのであれば、せめて声が出るよう練習するべきだったのではないか。
自分も歳をとった今思うのは、彼女には、「〇〇だから出演する」という意図はまったくなかったのではないか、ということだ。出演を依頼され、とくに支障がなかったから出演したのだろう。歳をとれば体型や顔立ちが変貌するのは当たり前だし、活動の程度によっては歌唱力も落ちる。それを取り繕うとか誤魔化すなどという気持ちは、まったくなかったのだろう。
それが紆余曲折を経てたどり着いた境地であるならば、わたしが思い悩む必要はなにもないのである。